物理探査って何?
よくわかる物理探査 物理探査って何?
「物理探査」は広く社会に貢献しています。その社会貢献を支えているのが、長年の研究・開発により培われてきた「物理探査の技術」です。
下の図は、このことをわかりやすく木に例えて説明しています。木の根っこは、地上の木の葉や花、果実が生き生きと育つように、地中の水や養分を吸収します。ちょうどそれが「物理探査の技術」にあたります。地下の根っこ(「物理探査の技術」)のおかげで、地上の木の葉・花・果実は、成長し、生き生きとした葉っぱをつけ、綺麗な花をさかせ、おいしい果実をつけるのです。この葉・花・果実は、「物理探査の技術」を活用した「社会への貢献」を表しています。
ここでは、どんな「物理探査の技術」があるのか?どんな風に「社会への貢献」をしているのか?を具体的に皆さんに知っていただきたいと思います。
下の図の楕円の文字をクリックしてください。すると、それぞれについての説明が現れます。それでは、楽しみながらゆっくりとご覧ください。
社会への貢献
物理探査の技術
資源・エネルギー
石油や天然ガスが地中に賦存する形態(トラップ)には、様々なものがあります。地質の構造運動により生じる大小の構造に規制された構造トラップ、岩相分布などの層序的な要因により形成される層序トラップ、あるいはこれらの複合したタイプのトラップが代表的です。
これらの対象について地質構造の形態を調査・推定するには、地震探査により地下の地震波反射面形状を知る手法が有力です。更に岩相・地層流体推定にも応用可能な場合もあり、これには地震反射波の属性変化が有効な手がかりとなってきています。また、これらの技術はメタンハイドレートなどの新たな開発対象の探査にも応用されています。
今後より探鉱が困難な油ガス田を探査可能としていくような物理探査手法が求められており、その要求に応える技術の醸成・向上がなされています。
維持管理
私たちの日常生活は、道路や埋設管、橋やトンネル、斜面、ダムや堤防など、様々な土木構造物や建築構造物に支えられています。これらの構造物は、時とともに老朽化が進んでいきますので、適切な維持管理によって、その機能を保持していく必要があります。
構造物の老朽化は、表面の様子だけではすべてを知ることはできません。路面下の空洞や埋設管、コンクリート内部の鉄筋の様子、堤防内部の弱い箇所など、目に見えない異常に対しても、適切な維持管理が必要です。「地中レーダ探査」や「電気探査」など、様々な物理探査技術が、構造物の"見えない異常"を検知するために役立っています。
防災
地震や風雨による土砂崩れや地すべり、液状化など、自然現象によっておこる災害は、私たちの生活に多大なる損害をあたえることがあります。しかし、おのおのの土地に応じて、地勢、地質などの情報や災害の発生のメカニズムを調べたり、災害の規模を予測したりすることで、被害を少なくする対策を講じることができます。
「弾性波(地震)探査」や「電気探査」などの物理探査は、防災対策を考えるための情報を得る有効な手段として利用されています。
CO2の地中貯留
近年、人間活動の拡大で、二酸化炭素・メタン・亜鉛化窒素などの温室効果ガスの濃度が増加し、地球温暖化、砂漠化、大気汚染、土壌汚染などが問題となっています。とりわけ、1997年気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書により各国のCO2削減量(日本:-6%)が決定されました。CO2削減のためには、植林による森林吸収、工場などの排出量の規制、CO2の地層貯留などが考えられています。このCO2の地層貯留は、地中の帯水層・石炭層・油層やガス層などに二酸化炭素を封入し、地下水に溶解させるなどして固定・貯留や資源としてのメタンを回収し、代わりに炭層に二酸化炭素を吸着させる手法です。しかし貯留に際して、二酸化炭素が十分に封じ込められるのかどうかといった問題があります。この問題を解決するために、CO2の地層貯留の挙動を観測するために弾性波トモグラフィなどの物理探査技術が用いられています。
遺跡・文化財
遺跡や遺物などの文化的遺産は、通常地下に埋もれているため、調査のために掘るという手段(いわゆる発掘調査)により行われます。様々な制約により発掘調査ができない場合、物理探査が情報収集の唯一の手段となります。また、探査の目的も、遺構の存在の有無を把握するといった初期の段階から、現在では遺構の詳細な形状や、内部構造・物性の把握、広域での分布状況の把握、遺跡を載せた基礎地盤の把握、遺構の保存・保全のための基礎データの取得まで広い分野に拡大しています。
環境
廃棄物処分場から自然地層への汚水漏れや海面上昇による地下水の塩水化をまねくことが懸念されるようになっています。これらの地下水(汚水、塩水)の有無、程度、分布状況を把握するために各種物理探査技術が用いられています。
今後、汚染物質すなわち地下水を継続的に監視する挙動観測(モニタリング)、地中貯留におけるCO2挙動モニタリングを実施するうえで、物理探査技術の担う役割は大きくなっていきます。
農業
農業分野の中でも特に農業土木分野では、地盤の調査や構造物の診断などでは、一般的に物理探査法が利用されています。たとえば、ダムの基盤調査、地すべり調査、地下水調査があげられますが、農業土木分野で独自な構造物の調査としては、地下ダムの調査に物理探査が活用されています。地下ダムは、地中に連続壁を作り、地下水を貯留しますが、地中の目に見えない箇所の工事となるため、特に物理探査による地下の可視化が重要となってきます。
地球科学
地震発生時の揺れをあらかじめ予想して、地震災害に備えるためには、地震発生前に震源断層の位置・形状や特性を明らかにすることが重要です。また、大陸棚を科学的に画定するためには日本沿岸の詳細な地殻構造の推定が不可欠です。反射法・屈折法を中心とした物理探査手法は、近年、データ取得技術・データ処理技術の進歩により、これまで調べるのが困難であるとされていた地下深部まで(~数十キロ)の探査が可能になって来ています。このため、このような地球科学の分野においても物理探査手法が積極的に取り入られるようになっており、これまでに多くの貴重な成果が得られています。
地震探査:弾性波の伝わり方を利用する
地球を構成する岩石は、異なる弾性的性質をもっています。弾性波探査は、大地に弾性波を送り込み、その伝播過程を測定し、地下の反射面構造や速度分布を推定します。
電気探査:電流の伝わり方を利用する
地球を構成する岩石は、異なる電気的性質をもっています。電気探査は、大地に電流を流し、それにより形成される電位を測定し、地下の電気伝導度分布を推定します。
重力探査:重力を利用する
地球を構成する岩石は、異なる密度をもっています。密度が大きい岩石は、物体を引きつける力(重力)が大きくなります。重力探査は、微少な重力変化を測定し、地下の密度構造を推定します。
磁気探査:磁力を利用する
地球を構成する岩石は、異なる磁化をもっています。岩石の磁化はマグマが冷却する過程での地球磁場に依存します。また堆積岩の場合には、磁性物質が失われたり磁化の方向がばらばらになってしまうために、トータルとしての磁化は小さくなります。磁気探査は、岩石の磁気的性質に起因する磁力変化を測定し、地下の磁気構造を推定します。
電磁探査:電磁誘導を利用する
地球を構成する岩石は、異なる電気的性質をもっています。コイルを用いた電磁誘導の話を思い出してください。磁界を変化させると、その変化を打ち消そうと誘導電流が生じます。電磁探査は、このような性質を利用して地下の電気伝導度分布を推定します。